包丁研ぎ2200本超えの中学生現る

包丁研いで２２０２本　神戸の中学生「今僕にできることを」

新型コロナウイルスの流行に伴い、「できないことだらけ」になった時期でも、「やろう」と始めて、続けた人がいます。誰でも、何でも、何歳からでも。始めるのに早いも遅いもありません。私たちの身近にいる「続け上手」を紹介します。

シュッ、シュッ、シュッ…砥石（といし）の上で包丁が小気味よい音を刻む。あどけない目元を鋭くし、手を動かすのは、神戸市の中学２年、河本陽向（ひなた）さん（１４）だ。全国から届いた包丁を日々、ボランティアで研ぎ続けている。

始めたのは小学６年になった令和２年４月、コロナ禍で小学校が休校してから。「暇を持て余し、今僕ができることは何だろうと探し、包丁研ぎがいいんじゃないかと」。５年のとき、長野県に山村留学して刃物研ぎなどを習っていた。手始めに自宅の包丁を研いだところ、母親の奈緒さんが「よく切れるようになった」と喜んでくれた。

近所の高齢者施設を会場にボランティアで包丁を研ぎ始めると、近所から次々に依頼が舞い込んだ。さらに「包丁砥がせてください」「僕を役立たせてください」と看板を作り交流サイト（ＳＮＳ）で告知すると、全国から包丁が送られてきた。

集中して黙々と、ときには笑顔で楽しみながら。ひたすら腕を振るい、昨年末までに研いだ本数、２２０２本。「ここまで続けられたのは、周りの人に支えられ、人との出会いがあったから」と話す。

わずかに砥石との角度がずれると切れ味が変わる。「集中力が必要で、自分の心が整っていないとうまく研げないんです」。だから作業中は、包丁だけでなく、自分の目や心も研ぎ澄ます。

手元に届く包丁には、一本一本に物語がある。「料理好きだった亡き主人の形見の品」「両親が経営していたお店でぼろぼろのを見つけたので」。思いのこもった手紙が添えられていることも多い。河本さんはそれらすべてに目を通し、一本一本、状態を確認したうえで、手紙の主を思い浮かべ、気持ちを込めて研ぐ。そうしているうちに、研ぎながら包丁の主がどんな料理を作る人なのかなどが分かるようにもなってきたという。

記者（４８）も包丁研ぎを頼んでみた。数日後、「心をこめて砥ぎました。大切な人においしい料理、作ってあげて下さい」と書いたカードが添えられて、戻ってきた。その包丁で切った長ネギの断面は、乱れず、美しかった。

「冒険家になって自転車で世界を巡り、世界中の人たちに包丁研ぎを知ってもらいたい」という河本さんの将来の目標は１万本を研ぐこと。今年は受験勉強もあるけれど、３千本目への到達を目指すという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/993f36aecf3c9f4415fb506b47a37c540c46809e