新国立競技場の使い道を考えてくれ

https://mainichi.jp/articles/20210114/k00/00m/050/264000c

オリンピック代表・大迫傑が描く未来日本最速ランナーが独占告白

東京オリンピックマラソン代表の大迫傑（29）＝ナイキ＝は、ただ速いだけの存在ではない。後進の育成のために子供たちと夢や進路を語り合い、学生トップランナーとのキャンプを開き、一般向けのボディーケアも考案する。現役中は競技に専念する選手が多い中、なぜ日本最速のマラソンランナーは精力的に競技外の活動を展開するのか。思いを聞いた。
競技＋αの価値
「競技だけでなく、プラスアルファの価値が重要です。速く走れるようになるだけでなく、陸上やスポーツを通じて視野を広げて生きる力をつけていければ、陸上以外の分野に進んでいってもプラスになると思っています。現役中だけでなく、引退後も世界で戦えるアスリートを出していきたいです」
新型コロナウイルスの影響で東京五輪を含めて多くの大会が延期、中止となった昨年、大迫は新たな取り組みを始めた。チームの垣根を越えて世界で勝負できる選手を育てる「SugarElite（シュガーエリート）」。8月に約1週間、大学、高校のトップ選手と少人数でキャンプを実施。12月には小学生に練習方法の指導をし、加えて夢をかなえるための考え方や進路について語り合った。
「夢を持っていても到達する方法が分からない子が多いです。子供たちには決めた目標に対して何が必要なのか箇条書きにしてもらうワークショップをやりました。大きな目標を小分けにする作業が大切です。僕もシーズンごとに目標を決め、そのために練習で何を意識すべきか考え、日々の積み重ねで結果を残すことができました。これは陸上以外のことでも生きます。シュガーエリートは教育的な部分も入れていきたいです。まだ、どういう形になるか分かりませんが留学システムなどができれば世界は広がります」
大迫は早稲田大在学中から己を鍛えるため、米国を練習拠点としてきた。英語が分からない状態で飛び込んだ経験があるからこそ伝えられることはある。
「まだ海外に行こうとする選手は少ないです。僕にできることは安心感を作ること。海外の大学にどうやって行ったらいいか分からず、国内の大学に進む人が多いので、自分のコネクションでこういう道もあるよと紹介することはできます」
一般ランナーのケアにも取り組み始めた。リラクセーションスタジオ「Re.Ra.Ku（リラク）」を運営するメディロムとボディーケアの施術サービスを共同開発し、今年1月、東京都内に1号店がオープンした。自身が専属トレーナーと行っている内容をベースに、股関節周辺のストレッチやもみほぐしで動きやすい状態に体を整え、故障を予防する狙いがある。
「トレーニング、食事、ケアの三つが大事ですが、一般の方はケアがおろそかになって故障していると聞きます。ケアはトップ選手だけでなく、スポーツをしているすべての方に必要。ケアの重要性が浸透し、継続してトレーニングできるようになってほしいです」
独自の道での気づき
大迫の独自の取り組みは今に始まったことではない。早大を卒業後に実業団へ籍を置いたが1年間で退社してプロ選手となり、米国で練習を続ける異例の道を選んだ。大学から実業団に進み、引退後はそのまま会社に残るという日本陸上界と異なる世界を知ることができた。
「実業団のシステムがない米国の選手は引退後、給与の水準が下がることが多いです。サッカーなど他のプロスポーツもそうでした。スポーツで頑張ってきたことを引退後も生かして個々の価値の低下を少なくしていきたい。そのために必要なことが競技プラスアルファの力を身につけることで、より具体的な方法を模索しています」
引退後、子供向けの教室を開く元選手は多く、セカンドキャリアを見据えて現役時代から少しずつ行う選手もいる。ただ、大迫の場合、自身の引退後に向けた取り組みではないという。
「セカンドキャリアのためにやっていると思われがちですが、今も真剣に陸上界、スポーツ界が少しでも良くなればと活動を考えています。陸上の価値を上げることは、陸上界で活動する僕自身の価値を上げることにもつながります。いつ行えば最大の影響力を社会に与えられるかと考えた時、引退後ではなく、注目を集めやすい現役中にやるべきだと思って一歩を踏み出しました」
新型コロナの影響で「集大成の一つ」と考えてきた東京五輪は開催可否で揺れ続けている。でもスタンスは揺らがない。
「五輪があるかどうかに左右されず、（男子マラソンが開催予定の）8月8日に向けてけがなくトレーニングを重ねていくことが今年の目標です。競技以外の活動はスタートしたばかりでどうしていくか考えているものが多く、一つでもいいから形にしていきたいです」