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https://mainichi.jp/articles/20201202/ddq/041/040/005000c

飲ませ運転させ事故、恐喝　容疑の男女６人逮捕　マッチングアプリで男性誘い　愛知県警

出会いを求める男女を結びつける「マッチングアプリ」で知り合った男性を誘い出し、酒を飲ませた上で車を運転させ、事前に示し合わせた仲間が故意に事故を起こして飲酒運転の口止め料を脅し取る－－。こんな恐喝事件を繰り返した男女６人のグループが、愛知県警に逮捕された。事件からは、若者に人気のアプリでターゲットを物色し、飲酒運転の後ろめたさや、下心から女性に近づいた気恥ずかしさといった被害者の弱みにつけ込む巧妙な手口が浮かび上がる。

　１月４日午前２時。愛知県一宮市のＪＲ尾張一宮駅近くのバー。名古屋市南区の２０代の男性会社員は、マッチングアプリで知り合った静岡県島田市の無職女性（２２）＝恐喝罪で有罪確定＝に誘われ、２人きりで酒を飲んでいた。話は盛り上がり、気がつけば朝に。女性から「車で家まで送ってほしい。家で休んでいって」と誘われた男性はビールや焼酎を数杯飲んでいたが、下心もあって断り切れず、女性を助手席に乗せて運転した。「そこ曲がって」。口頭で指示されるうち、車は田畑が広がる人けの無い狭い道路を走っていた。

　午前５時半ごろ、前方から進んでくる外車が見えた。道幅は約３・５メートル。すれ違いざまに車同士が接触した。相手の車からは、男２人が降りてきた。「酒飲んでるよね。警察呼ぶよ」。謝罪する男性に２人はたたみかける。「補償はどうするんだ」「いくら払えるの？」。飲酒運転が発覚すれば、免許取り消しもあり得る。男性は約１・４キロ離れたコンビニエンスストアに連れて行かれた。現金自動受払機（ＡＴＭ）から引き出したのは５万円。「少ないなあ」。２人に促され、さらに消費者金融のＡＴＭ２カ所を回って６７万円の借金をさせられ、現金計７２万円を脅し取られた。

　男性から被害相談を受けた愛知県警は７月以降、これまでに男女６人を逮捕した。一宮市内で同様の事件を繰り返していたことが判明し、うち６件を立件した。２０１９年１２月～今年６月、２０～４０代の男性６人から計３３９万円を脅し取ったとされ、現金はパチンコなど遊興費に使ったという。

アプリ利用者増
　グループが使っていたマッチングアプリは、運営会社によると登録者数約６００万人。共通の趣味からパートナーを見つけるサービスで、マッチング数は国内最大規模だ。ソーシャルメディアに詳しい民間調査会社「ＭＭＤ研究所」（東京都港区）が９月に実施した調査では、２０～４０代の男女５３８５人のうち、２７％が「マッチングアプリを知っている」と回答。そのうち５７・１％は、アプリを利用したことがあった。

　被害男性を誘い出す役だった女性２人も元々アプリを利用していた。愛知県警幹部は「最近は真剣に交際相手を探すためにアプリを使う人も多い。利用者が増えているからターゲットも選びやすかったのだろう」と指摘。捜査員の一人は「実際に飲酒運転をしたことと、女性への下心があったことが、被害を名乗り出るハードルを高くした」と説明する。立件した事件以外にも被害者はいたが、被害届を出さないケースもあったという。【井口慎太郎】

当たり屋　「事故」現場下見
　逮捕されたグループの公判や捜査関係者によると、グループはリアルタイムで連絡を取り合い、被害男性を飲酒運転に誘導。第三者に目撃されたり接触し損なったりしないよう、道路を入念に下見し、事故現場に土地勘がない男性をターゲットにするため、アプリで居住地をチェックするなど周到な準備をしていた。

　グループの女性は被害男性が車で来ないと飲酒運転が成り立たないため、終電後に呼び出し、男性が飲酒を渋ると「飲まないとつまらない」「映画のＤＶＤが家にある」などと言葉巧みに誘い、飲酒したことを確認すると、待機する仲間に「今、飲んだ」と無料通信アプリ「ＬＩＮＥ（ライン）」で送っていたという。

　グループの中心メンバーである一宮市の電気工事業の男性被告（２２）＝３件の恐喝罪で公判中＝は飲酒運転の車と事故を起こし、相手側から口止め料７０万円を得た友人の話をヒントに手口を考案。「おいしい話がある」と地元の遊び仲間だった同市の空調設備業の男性被告（２１）らを勧誘。被告の一人に恋愛感情を抱いていた女性らが、被害男性の誘い出しに協力したという。

　１日の公判で、被告２人は「怖がる言い方や高い金額（の要求）はいかにも恐喝。警察に行ってしまったら計画の意味が無い」と事件を振り返り、警察に相談されないよう工夫していたことを明かした。