- 1 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:06:27.924 ID:OtmiN6XL0
- タイトル 十二時に
彼女は快楽殺人鬼。隣の席に着いた時、そう言われた
- 2 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:06:55.125 ID:OtmiN6XL0
- ”南雲 京子“と話すのは、何もこれが初めてなわけではなかった。一年時の芸術選択で美術を選んでいた僕は
自主制作の時間中創作をするのもそこそこに、数学の解き直しを進めていた。 - 3 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:07:19.537 ID:OtmiN6XL0
- それが終わりロクでもない点数の答案用紙をノートに貼り付けようとした時に
のりがないことに気づいた。 - 4 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:07:48.013 ID:OtmiN6XL0
- 次の時間にでも誰かに貸してもらうかと思ったのだが
水道に版を洗いにきていた南雲に声をかけられた。 - 5 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:08:24.075 ID:OtmiN6XL0
- のりを貸してやろうかとかなんとか。女子にそんなことを言われるのは有り難い、喜んでお言葉に甘えさせて貰った……のだが
“のり付けっていうのは実際くっついていると思う?”なんて聞かれたのだった。 - 6 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:08:43.303 ID:OtmiN6XL0
- 僕は急に聞かれたものだから面食らって
そりゃあそうなんじゃないのかと返したら小馬鹿にされた。 - 7 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:09:08.997 ID:OtmiN6XL0
- 彼女が言うにはのり付けというのはのりがその粘性で紙と紙を繋ぎ止めているのであって、紙同士の分子が結合しているわけではないのだから
“付ける”なんていう表現は気持ちが悪いとのことだった。 - 8 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:09:33.775 ID:OtmiN6XL0
- “紙そのものだって繊維の集合なんだから、分子結合はしてはいないじゃないか”と言い返すと
『だって紙は“付けられている”なんていう表現はされないでしょう』と諭された。 - 9 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:09:56.985 ID:OtmiN6XL0
- 腑に落ちるようで、あんまり筋が通っていないようにも思える理論だった。とにかく彼女はそういうもの一つ取っても考えすぎてしまう
まあ“厨二病”だったわけである。 - 10 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:10:18.337 ID:OtmiN6XL0
- 受け渡された水のりが、ぬーっと対流を繰り返す。僕はスティックタイプが好きなのに……
緩めたキャップからツンと匂いを嗅ぎながら。 - 11 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:10:39.931 ID:OtmiN6XL0
- そういう出逢いがあってから、やっぱり彼女は変わっていなかった。いや寧ろその勢いを増していたというべきか。
「もう九人は殺しているわ」
そんなことを言いたいお年頃なのだろう。
「そりゃ随分と物騒な」
初めて会った時はショートカットだったけれど、今は随分後ろ髪が伸びてセミロングになっていた。 - 12 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:10:56.114 ID:OtmiN6XL0
- 「何でそんなに殺してるのさ?」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに口角を上げ、顎を上げ
「並行世界線にいるあなた達が、この時空に引きずり込まれてしまったから」
とB級ホラー映画でもなされないような事を言ってのけた。 - 13 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:11:15.009 ID:OtmiN6XL0
- 「並行世界の僕?」
「そう、あなた。十一次元の宇宙の中に、各次元に付き一人がいるわ。重複した十人を殺して、この世界にいるあなたを一人にする必要がある」
……亡くなったホーキング博士に説明を求めたくなった。 - 14 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:11:31.698 ID:OtmiN6XL0
- 「三井君、あなたって死の間際にはにかんだような顔をするよね」
「いや、申し訳ないけどまだ死んだことはないし、それにそんな事は知りたくない」
「絞首した時も、心臓を射抜いた時も同じ顔をしていたから驚いたわ」
僕はどういう顔をして聴けばいいのだろう。自分の死に顔をアナライズされる気持ち、わかる方はいるだろうか? - 15 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:12:43.325 ID:OtmiN6XL0
- 「もしかして僕、南雲さんに何か嫌なことでもしたっけ。だとしたら今すぐにでも謝りたいんだけど」
「いえ、全く。あなたが謝る必要なんか何もないわ」
「そっか、よかった……」
ケラケラと笑う南雲さんと、能の踊りでも見せられたような僕の顔があった。 - 16 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:13:08.488 ID:OtmiN6XL0
- 「ところで死体とかってバレないのかい?」
「ええ、大丈夫」
「どうやって隠してるの?海にでも遺棄するとか」
「うーん、大抵は燃やすかな」
「燃やす!?」
随分とエキセントリックな証拠隠滅法だった。 - 17 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:13:22.905 ID:DK9wwP+v0
- 長い
- 18 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:13:58.113 ID:OtmiN6XL0
- >>17
ごめん - 19 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:14:27.004 ID:OtmiN6XL0
- 「そう、四十等分くらいにして野焼きの中に放り込むの」
「僕はサイコロステーキか!」
火葬をするならせめて手ぐらい合わせて欲しいね。
「あ、でもこの間は食べたかな」
「食べた!?」
カニバリズムとは……僕なんかフライドチキンを見るだけでグロテスクで耐えられないのに。 - 20 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:15:27.505 ID:OtmiN6XL0
- 「美味しかったわ。顔の皮とか……肺とか心臓とか」
「うわぁ……サンマの内臓だって食べられないよ、僕は」
「アハハッ、それは体に悪いから食べないほうがいいでしょ」
食人をしている奴に健康を気にかけられるとは。 - 21 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:15:58.440 ID:OtmiN6XL0
- 「今度は脳髄でも食べてみようかな」
「それは、辞めといたほうがいいよ」
「そっ、優しいのね」
「……気が弱いだけさ」
「動転すると人格が変わったり?」
拗らせてんなあ。 - 22 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:16:31.234 ID:OtmiN6XL0
- 「ないよ、そんなカッコいい設定」
ふぅん、そうなんだとつまらなそうに。
「三井君、ケータイ持ってる?」
凄い話の飛び方だった。
「あー、うん。持ってるよ」
「メールアドレス、交換しない?」
「あ、はい」
ぱちポチとお互いのアドレスと電話番号を入力しあった。 - 23 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:16:56.444 ID:OtmiN6XL0
- 「ちなみに殺した僕とも交換してたの?」
「いーえ、あなたが初めてよ」
「……そっかそっか、成る程ナルホド」
「どうかした?」
「いーや、なんでも」
「ふぅん」 - 24 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:17:26.309 ID:OtmiN6XL0
- 親睦を深めるためのクラスレクリエーションも終わり明日からゴールデンウィークな金曜日だった。
「三井君、化学の小テストどうだった?」
「勿論まるでダメだった」
「ふぅん、そんなに」 - 25 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:17:58.534 ID:OtmiN6XL0
- 勝手に僕の答案用紙を引き抜いて、得点を見つめる。
「フフッ、気液平衡でなんで充填率の計算してんの」
「ちょっとでも公式を覚えていることをアピールしようと思って……顔に出してバカにしないでくれ」
「ごめんごめん」
そう言って僕の名前から横線を一本消して“二井”としてきた。
「……」
「ごめんって、次はきっと上手く行くよ。多分、きっと、知らないけど」
フォローしているのか、否定しているのか…… - 26 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:18:21.920 ID:OtmiN6XL0
- 空間ベクトルの問題を解いていると
「あ、消しゴム貸してくれない?」
「あ、どうぞ」
「ありがと」
間違えた箇所を消し終えた後、南雲さんは消しゴムのケースに描かれた少年のシルエットをシャーペンの先で突き刺した。 - 27 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:18:51.208 ID:OtmiN6XL0
- 「何か恨みでも!?」
「ないわ。でも刺したわ、後悔はしていない」
「僕のだから後悔くらいはしてくれよ」
ごめんなさいと、消しゴムを返してくれる。 - 28 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:19:22.973 ID:OtmiN6XL0
- 「あ、そういえば私彼氏が出来たんだ」
カタリと音を立てて滑り落ちた鉛筆は、僕のものだった。クラスの連中が一瞬こちらを見るがそんなことは気にかからない。
「え、え?彼氏?」
「そっ、付き合い始めたのは昨日から」
「……それって、三次元の?」
「勿論」 - 29 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:19:52.422 ID:OtmiN6XL0
- 「そっ、そっか。お、おめでとうございます」
「ありがと」
あっという間に時計の針は進み、六限が終わり、ホームルームが終わり
“じゃあ、また”とか言って彼女は帰っていった。
震度七以上に揺れている自分の心が一番の驚きだった。 - 30 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:20:34.613 ID:OtmiN6XL0
- うだつの上がらないゴールデンウィークはもう最終日の夜だった。
時計の針は十一時を指していた。そろそろ寝ようかと思っていた。
明日は登校日だが、また南雲さんの面白おかしい話を聞ける……
いやあの子は彼氏がいるんだった。そんな自問自答が何回か繰り返された後
ベッドに入った。 - 31 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:21:10.710 ID:OtmiN6XL0
- ゴールデンウィークに入る前、彼女と何を話したかを思い出しながら。
僕の名前の線を消したり、消しゴムケースの絵を突き刺したり相変わらず意味不明な行動ばかりだった。
十一人の僕がいて、十一個の次元に収まっている。 - 32 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:21:48.599 ID:OtmiN6XL0
- あの言葉の意味はなんなのか……それじゃあまるで、絵や線の僕がいるみたいじゃないか。
そんなのどうやって56すって……バカなことを考えたと思った。
でももしかするとこの考えを実行に移さないで後悔する方が
よっぽどバカかもしれなかったから。 - 33 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:22:26.390 ID:OtmiN6XL0
- 掛け布団を跳ね除け、ケータイを開ける。
夜も遅いが彼女の電話番号にかける。彼女はワンコールで応じてくれた。 - 34 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:23:09.187 ID:OtmiN6XL0
- 「フフッ、どうしたのこんな遅くに?」
「ごめんよ、でもどうしても確認したいことがあって」
「ふぅん、どうしたの?」
「君が前言っていた十一次元ってことはさ、それってつまり零次元も入れたら十二個の次元がある筈じゃない?」
電話の向こうでほんの少しだけ彼女の息を呑む音が聞こえた。
「……大事な話があるんだけど、今から学校に来れない?そうしたらそのことも話せるから」
「勿論、行くよ。今すぐにさ」
「よかった。私にとっては“悲しい話”だけどあなたにとっては“いい話”かもしれないわ」
「そっかあ、楽しみにしてるよ」 - 35 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:23:41.488 ID:uEo7zDvJa
- 見てるぞ
- 36 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:23:49.029 ID:OtmiN6XL0
- 少し間を置いて、
「私ショートカットにしたんだけど、どうかな似合ってそう?」
「十二点……十点満点中で」
「……そう、とっても嬉しいわ」
“それじゃ十二時に校門で”と彼女は電話を切った。 - 37 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:24:28.137 ID:OtmiN6XL0
- あと約三十分か、急いで準備をしていかなくちゃ。
電車はもうないから自転車に乗って行こう。
彼女はこれから十一人目の僕を殺しに行くかもしれない
いやもう殺しているかもしれない。
だとすれば血濡れのナイフを拭うためのハンカチが必要だな。
それから、それから……とにかく早く玄関を出よう。 - 38 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:25:02.091 ID:uEo7zDvJa
- ゆっくり投下しないと連投規制くるお
- 39 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:25:21.771 ID:OtmiN6XL0
- 自転車の鍵を急いで外して、彼女に会いに行く。
錆びついているせいで力を込める必要があるんだコレ。
校門に着いたら“やっ”とか“よっ”とか交わして、紺色の空の下、話をするんだろう。
そうしたら、その後は……僕を彼女の恋人にしてもらおう。
十二時に迎えに行く、彼女は快楽殺人鬼。 - 40 名前:番組の途中ですが翡翠の名無しがお送りします 投稿日時:2019/11/17(日) 00:26:35.904 ID:OtmiN6XL0
- >>38
すまん、焦ってたわ。一応今ので終わりです。
お話考えたわ

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